通備門は八極拳、劈掛拳、翻子拳などの拳術から構成されているので、これらの拳術の武器も伝わっている。

八極門の修行者は八極拳のほかに、さらに六合大槍を学ぶことが多く“神槍”と称された名人を数多く輩出させている。また八極拳独特の風格がある漂揺刀も馬家には伝わっている。

劈掛門に伝わるこれらの多種の兵器はどれも劈掛拳の原理を有しており轆轤勁を取り入れた独自の風格があり、その名は世に広く知られているが伝承は少ない。

槍術は「長兵(長い武器)の王」と呼ばれており、中国武術各門派と同じように通備門でも重要視する。通備槍法では套路だけでなく、大槍による散招や対扎の練習も重視する。先述した八極拳の呉家から伝わった八極門の六合大槍以外に、李雲標から黄林彪へと伝わってきた槍術であり、その源流は明代の六合槍である。

両者の良いところを吸収し、さらに馬鳳図が明代の戚継光が著した兵法書「紀効新書」の二十四種の槍術と程沖斗が著した書物の中にある十八種の槍術を研究して発展させたのが通備門槍法である。

苗刀(太刀)は清代では倭刀と呼ばれおり、清代に呉殳が著した「手臂録」に収録されている単刀法であり、日本から逆輸入された刀法である。苗刀は民国時代になってできた呼び名であるので、通備門では苗刀ではなく正式には双手刀法という呼び名を用いている。呉殳は当時中国沿岸地域を荒らしまくっていた倭寇(日本人)が用いていた優れた刀法に注目し、中国の伝統剣術と倭人から学んだ日本刀法を研究工夫して十八勢の双手刀法(日本の剣道の様に両手で持つ刀法)を編出した。

日本の刀法(剣術)は中国から伝わったものである。日本では刀法の試合形式を剣道と呼んでいるが、これは中国漢代の「剣道」から来たものとされている。この両手で持つ刀法は中国では長い間失伝していき、日本では栄え発展してきたが、「武備誌」に記載されている朝鮮剣双手剣法譜式から見ると、日本の刀法は朝鮮半島を経て日本に伝わってきたのが理解できる。

通備門の苗刀はこの十八勢刀法を劈掛の原理を以ってさらに技術を発展させたものであり、2つの套路が伝わっている。南京中央国術館で練習されてきた系統のものとは別物である。>苗刀の練習写真はこちらから...

翻子門からは八歩連環進手刀が伝わっている。この刀術は翻子門独自の風格を有しており、これも伝承がまだ少ない。

また風磨棍は馬鳳図が1925年 張家口にいた時「奇槍」、「五十五図」、「八十八棍」を組み合わせたものである。この棍法は穂先を付ければそのまま槍術になる。

鞭杆は短棒でおこない、元来西北地方に古くから伝承があったものを馬鳳図が劈掛拳の原理を以って改変し通備門に取り入れたのである。両手双頭を用いることを主とし単手でも使用する。技法は変化が多い。通備門に伝授されている鞭杆と西北棍術は今だに西北棍法特有の技法の、本来の内容を残しているが、勁道上、身法において通備勁の影響を受けたことにより、もとの姿と異なってきている。

西北棍術は動作の大部分が両手を用い、双頭(棍の両端)を用い変化が多い。

これらの西北棍術は「蒲団」系と「天奇」系の二つに大きく分かれている。「布団」系の特徴は単頭(棍の片端)を多く用い、槍法が多く含まれている。技法は細かく暗勁を多用する。「天奇」系の特徴は把法(柄を握る方法)が霊活で変化が多く、両手を使用し双頭を多用する。技法も活発で比較的激しく、明勁を多用する。

通備門に伝わる武器

・六合大槍 (八極門)

・漂揺刀  (八極門)

・劈掛刀  (劈掛門)

・六合刀  (劈掛門)

・苗刀   (劈掛門・日本の剣に似た双手刀)

・春秋大刀 (劈掛門)

・梯袍剣  (劈掛門・通備小剣ともいう)

・宣化剣  (劈掛門・通備大剣ともいう)

・五十五図 (劈掛門)

・八十八棍 (劈掛門)

・風磨棍  (劈掛門)

・奇槍  (劈掛門・劈掛槍)

・風頭閣 (劈掛門)

・欄門厥 (劈掛門)

・三節棍 (劈掛門)

・八歩連環進手刀 (翻子門)

・鞭杆  (西北系)

・紐絲棍 (西北系)

・天旗棍 (西北系)

・布団棍 (西北系)

・乱劈柴 (西北系)

・風磨条子 (西北系)

 など

鞭杆

通備門は八極拳、劈掛拳、翻子拳などの武器の他に、西北系の武器も伝わっている。

鞭杆は、本来は甘粛省といった西北地方に伝承があったものである。短棍を持っておこない動きが非常に簡素であるが、手軽で短い棍の特権なのか、臨機応変に使うことができ、実戦性が強いとして知られている。

通備門の鞭杆は甘粛省に伝承があった鞭杆であるが、馬家では馬鳳図が甘粛省へ移住してから練習するようになり、元来甘粛省で伝承されていた鞭杆を劈掛刀、双手剣、太刀等といった通備門の刀法の技法だけでなく、通備の勁を採り入れられことによって、発勁が強大になり、独自の歩法と轆轤の勁による連続回転運動も活かされ、相手に隙を生じさせないものとなった。

通備門の鞭杆は五陰、七手、十三法等からなっている。

纒海十八打という18種類の招法がある。これは奥伝で一般には公開されていない。日本では当会代表師範が蘭州嫡伝・郭老師から特別に伝授してくださり、継承している。

五陰は5種の異なる把法を意味し、各把法の動作にある陰手棍法の動作から組み合わせて構成されている。

七手は7種の棍法が一緒に組み合わせて構成されている。十三法は13種の基本手法である。

通備門の鞭杆の練習では、掉手鞭杆、黄龍鞭杆、纒海鞭杆といった套路(型)があり、五陰、七手においてもいくつかの動作を組み合わせただけのものである。一般の武器の練習では他の門派と同様に套路を練ることに重点が置かれているが、鞭杆の練習においては即戦力を目指す練習をおこなう。

短い棍であるから携帯にも便利で非力の人でも練習しやすいので、当会でも日々学習希望者が増えてきている。

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