2002/7/20〜21 馬氏八極拳セミナー IN 広島

さる7月20日、21日 広島市内において馬氏 八極拳定例講習会が行われた。遠くは山口や四国の愛媛からも受講者が参加された。中には全くの初心者もおられたが、当会代表師範である小林正典先生、みずから手を取って基礎から発勁方法、八極小架、実戦技法まで、出し惜しみもなく指導された。地方では本場の中国武術に触れる機会が全く無いといってもよいだけに、馬賢達老師の入室弟子である小林先生から直接指導を受けられたことは、今回参加された受講者にとって大変貴重な体験となったはずである。

よその通備拳関係の団体で10年も修行された方も今回参加されたが、小林先生から勁の出し方、発勁するまでの身体の動きを訂正されると数段と威力が増して以前と見違えるようになったと感動されたという。

今回小林先生から講習会のレポートをいただいたので紹介する。

小林正典先生のレポート紹介

7月20日(土)早朝の飛行機で広島に着きました。天気は曇りで時々小雨が降っており、太陽が出ていなくても広島は瀬戸内気候独特の湿度のある暑さです。東京暮らしに慣れている私(小林)にとってはかなりのキツイ暑さです。

予定通り2時から講習会を始めました。わざわざ四国や山口から来られた人、他の武道をやられている人、全くの初心者の人や女性の人もおられました。最初はそれぞれ全く違う人を一度で教えるのは正直どうしようかなと多少不安がありましたが、皆さん真面目そうな方ばかりで、しかも覚えるのが早いので教えるには苦労しませんでした。

一番最初に基本的な立ち方(架式)を教えました。馬歩・弓歩・虚歩と… 低い姿勢が要求されるので、初心者の人たちにはきつかったかもしれません。

次に通備拳の基本功、劈掌・掛掌と教えました。劈掌は上から下へ腰を軸としてまわし、その力を利用して肩の力を抜いて立円を描いてまわす功法です。「放長撃遠」を要求されます。初心者の人はどうしても肩の力が入ってしまい上体だけで動いてしまうので、肘が曲がってしまい、手を伸ばしてちゃんと立円が描けません。これらの練習を劈掛拳や通背拳など特に放長撃遠を要求される拳法は必ず練習します。馬家の八極拳は劈掛の身法や発勁方法を用いるので必ず身体をゆるめなくてはいけません。ですから劈掛の基本も練習するのです。

それから開合を使った身法の動きを教え、発勁をおこなうための身体の動き、特に腰を軸にて回し、跨を切る、力を蓄えて勁を発する(呑吐開合)を説明しながら教えました。

皆さんは真面目に私の指示どおり練習されていましたが、なかなか一日、二日でできるものではありません。

次に八極拳の基本の突き冲捶、衝捶を教えました。 冲捶は八極拳の基本、「金剛八式(通備門では剛功八式という)」の一本目として多くの八極拳の修行者には知られています。馬家は劈掛拳がメインだから劈掛の基本だけやる… と多くの人に誤解されていますが、馬家においても原来の八極拳の系統的な練功は行っているので冲捶といった基本突きは必ず練習します。

衝捶は形意拳の跟歩のように前へ大きく飛び込んで後ろ足を寄せて拳を打ち出します。拳を打ち出す時は冲捶と同じで八極拳独特の打ち出し方「三盤合一」を要求されます。

これらの要求の他に、馬家の八極拳では劈掛の勁道をも取り入れているので、元来の八極拳より発勁が強大になっており難易度も高くなっています。

受講者の中に、よその通備拳団体で10年も修行されていた方がおられました。彼は姿勢が前傾するくせがあり、力点もブレていたので、正しい姿勢と身体の動かし方に直させました。彼は真面目で頭も良いのでしょう。すぐに訂正してくれました。そうしたら、強い勁が出るようになりました。ですから正しい姿勢、身体の動き、要点さえ出来るようになればそれなりの発勁は出来る物なのです。ですがこれは、ほんの基本的なものですので、一つのことが出来るようになったら、次へとステップアップして行かなければなりません。

話が少し横道にそれてしまいましたが、多くの中国拳法に関係されている方々に、通備拳は「勢いが前に出る為に姿勢が必ず前傾する云々…」と言った誤解が有るようです。確かに勁を遠くに放ち出すことは厳しく要求されますが、重心は必ず真下に落とさなくてはいけません。でないと力点がブレたり、拳を打ち出したとき前へよろめいて姿勢が崩れたりします。それでは実戦の際、相手に掴まれ引かれたら、簡単に引き込まれ、崩されてやられてしまいます。

前へより強い勁を出すには「呑吐伸縮」・「大開大合」・「放長撃遠」の要求の他に、必ず重心を下に落とします、その際足腰の捻りが大切です。

そして最後に皆で一緒に八極拳の基本套路「八極小架」を行いました。まずは起式、それから里門頂肘⇒開弓勢へと震脚でドンッ!と音を立てながら力強く発勁を行います。これは剛の中に柔を求めます。ただ力まかせに行うものではありません。

馬家の八極拳は劈掛拳の「慢拉架子」をも要求されるので、動きの中には太極拳のように、ゆっくり気を練るような動作が有ります。ですから剛と柔を兼ね備えた八極拳です。他に翻子拳の猛烈な拳打の打法、通臂拳や蟷螂拳の動きも取り入れられています。馬家の八極拳こそ中国北派の拳法の良い所を取り入れ融合させた集大成であるのです。

各拳法の動きが取り入れられてはいますが、技法は元来の孟村の八極拳のものです。馬賢達老師の父である馬鳳図公は幼少の時、その祖父、呉世軻とその親族である呉懋堂から八極拳を学び全伝を受け、さらに弟の馬英図公を羅瞳へ差し向けて、当時羅瞳の八極拳の代表的人物、張景星に拝師させて学ばせました。よって馬家の八極拳は二大流派のものを組み合わせたものがベースとなっています。

そうして、小架の用法や応用変化などを説明しながら進めてゆき、その日の講習会を終えました。

翌日も行いましたが、何分、私自身が多忙な身であり書き切れませんので、以上にて省略させて頂きます。

技術解説

大纒

八極拳は実戦の時の注意点に「挨」、「戳」、「擠」、「靠」の四つの字訣がある。すなわち素早く死角から敵に接近して相手にぴったりとくっついて攻めてゆき、敵の体勢を崩して、その崩れた体勢の敵を体当りでフッ飛ばすことである。

大纒は特にこれらの攻撃方法の中で、非常にわかり易いものなので、参考にして頂きたい。

大纒からの変化・八極拳の寸勁

大纒から“跨打”を用いての投げ

大纒から“跨”を用いて相手を崩して投げる変化もある。立身中正と三盤合一を意識することにより威力が出て、ご覧のとおり2メートル近い大男が飛ばされている。

たんに崩して投げているのではなく、手・腰・跨の部分ではさむようにしてテコの原理を使って投げている。

大きく崩しているのがハッキリとわかる。技術を練って会得してきた功夫なのである。

たんに崩して投げているのではなく、手・腰・跨の部分ではさむようにしてテコの原理を使って投げている。

※今回のセミナーは広島で開催したものであるが、大纒の技術解説で小林老師の相手をつとめてくれたのは東京本部在籍のジャイアント小澤選手です。

小澤選手は2メートル近い巨体の長い足で世界を股にかけて活躍できる武術家になるために東京本部で日々修練しています。そんな小澤選手を暖かく応援してあげてください。

掛塔

八極拳の投げ技であり、相手が「靠(体当たり)」で接近しながら打ってきた時、

(1)左手で抑えながら防御し、

(2)それから右手で相手の背中を打ちつけながら、右足で相手の左足を強く払う

荒技である。

小纒

擒拿(キンナ)の技術であり、敵が自分の手首をつかんだら左掌で上からおさえて固定したまま右手を内から外へと回し、敵の手首を捻って、敵の右肘を「くの字」にさせるようにして、手首関節を極める。この技術は合気道などにも見られる技である。

しかし八極拳の本来の小纒の関節技は、敵の手首を捻って自分の左の肘を相手の上腕の近くのところで固定させ、身体を沈めて落とす勁をつかいながら、テコの原理を利用して、敵の肘関節も極める。

小纒の変化

手首の他にもし敵が肘近くを掴んでいたら以上のように変化する。用法は固定したものではなく相手のでかたによって、あらゆる変化ができる技術をも身に付けなくてはならない。この技術は合気道にはみられないものだ。

右足を後ろへ下げて半身になっている点に注意いただきたい。関節技は角度が変わると極められなくなり、敵に肘の近くを掴まれると元来のやり方では極まらなくなる。左手を下から回して敵の右手を抑えている点にも注目されたい。こうする事によりテコの原理が利用されて敵の関節を極めることができる。

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